チーム全員で受ける「店舗の人材マップ」のつくり方|診断結果を組織で使う

チーム全員で受ける「店舗の人材マップ」のつくり方|診断結果を組織で使う

著者:蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年


リード文

店長一人が診断を受けて終わり、では「組織の問題」は何も変わりません。

飲食店における多くの課題は、個人の能力不足ではなく、チーム全体のスキルバランスの偏りから生まれています。数値管理が得意なスタッフが誰もいない店舗、リーダーシップを発揮できる人が一人に集中している店舗、育成の仕組みを誰も理解していない現場――こういったチームレベルの問題は、一人の診断結果を見ていても発見できません。

本記事では、チーム全員が昇進適性診断を受け、その結果を組織全体で活用する「店舗の人材マップ」の作り方を解説します。「やらされ感」を出さない導入方法から、マップを使った育成優先順位の決め方まで、現場で実践できる形でお伝えします。


「人材マップ」とは何か

人材マップとは、チームに所属する全員の強みと弱みを5軸のスコアとして可視化し、組織としての偏りと補完関係を把握するための組織図です。

一般的な人材マップは「スキルマトリクス」とも呼ばれ、誰が何のスキルを持っているかを一覧にしたものです。昇進適性診断を活用した人材マップはこれをさらに進化させ、リーダーシップ力・マネジメント力・売上数値管理力・人材育成力・顧客満足度向上力の5軸を定量スコアで比較します。

人材マップが明らかにすること

  • チーム全体として「どの軸が強いか」
  • 「どの軸が弱いか」(店舗全体の課題)
  • 特定の軸に強い人と弱い人が誰か
  • 補完関係(Aさんの弱みをBさんの強みで補えるか)
  • 育成投資を集中すべき軸と人

これらが一覧で見えることで、「なんとなく全員を同じ研修に送る」から「この人はこの軸を集中的に伸ばす」という個別最適の育成が可能になります。


チーム全員が診断を受けるメリットと、一人だけが受けるとの違い

一人だけが受けた場合の限界

店長一人が診断を受けると、「私はこういう人間だ」という個人の現在地は把握できます。しかし、それだけでは以下の問いに答えられません。

  • 「私の弱みをカバーできる部下はいるか?」
  • 「このチームでお客様の満足度を上げるためには、誰に何を任せるべきか?」
  • 「次に昇進させるべき人材は誰か?」

これらは組織の問題であり、組織のデータがなければ答えは出ません。

チーム全員が受けた場合に見えること

一人受診で見えること チーム全員受診で見えること
自分の5軸スコア チーム全体の5軸平均スコア
自分の弱み 店舗として弱い軸(全員が低い軸)
自分の強み 強みが集中している人(キーパーソン)
自分の成長余地 育成が最も急務な軸と人
自分のキャリア課題 店舗として次に取り組むべき課題

チーム診断の特別なメリット

チーム全員が受診すると、相互理解が進むという副次的な効果があります。「実はAさんは数値管理に強い」「Bさんはリーダーシップが突出している」という認識がチームに広がることで、「誰に何を相談すればいいか」が自然とわかるようになります。


人材マップの作り方

ステップ1:全員に診断を案内する

店長または店舗責任者が、チームメンバーに診断を案内します。このときの伝え方が重要です。

良い伝え方の例:
「店舗をもっとよくしていくために、チーム全体でどこが強くてどこが弱いかを確認したい。各自の強みを活かした仕事の分担をするための情報収集として、この診断を受けてみてほしい。結果はプライベートなので、共有したくなければしなくていい。」

避けるべき伝え方:
「昇進のための評価として診断を受けてください。」(評価感が出ると正直に答えにくくなる)

ステップ2:各自が受診し、任意で結果を共有する

診断は完全無料・登録不要で、個人のスマートフォンやPCから受けられます。受診後、各自が自分のスコアをメモまたは画面キャプチャして、店長に任意で共有します。

共有の形式:
– 口頭でスコアを伝える
– LINEやチャットでスクリーンショットを送る
– 共有フォームに入力する(店長がスプレッドシートを準備する場合)

共有はあくまで任意です。共有したくない人には強制しないことが、信頼関係を守るうえで不可欠です。

ステップ3:集まったスコアをマップに整理する

共有されたスコアを以下のような表に整理します。

人材マップ(記入例)

氏名 役職 リーダーシップ力 マネジメント力 売上数値管理力 人材育成力 顧客満足度向上力 合計
田中(店長) 店長 4.0 3.5 2.5 3.0 4.0 17.0
鈴木(副店長) 副店長 3.0 4.5 4.0 2.5 3.5 17.5
佐藤(ホールリーダー) リーダー 3.5 3.0 2.0 3.5 4.5 16.5
山田(キッチンリーダー) リーダー 2.5 4.0 3.5 3.0 3.0 16.0
平均 3.25 3.75 3.00 3.00 3.75

この表から「売上数値管理力と人材育成力の平均が低い」という店舗全体の傾向が見えます。

ステップ4:マップを読み解く

確認する3つのポイント:

  1. 平均スコアが最も低い軸はどれか(店舗全体の弱点)
  2. その軸で最もスコアが高い人は誰か(その分野のキーパーソン)
  3. 全員が低い軸があるか(チーム全体の育成課題)

スコア分布から見える「店舗の強み・弱み」

実例:全員が数値管理力の弱い店舗

あるラーメンチェーンの1店舗を支援したとき、チームの売上数値管理力のスコアが全員2.0前後という状況がありました。店長もスタッフも、PLを読んだことがなく、FL比率の計算もできない状態でした。

この店舗では毎月「なぜか赤字になる」という問題が繰り返されていましたが、数値が読めないため原因の特定ができずにいました。人材マップを作ったことで「チーム全体に数値管理の知識がない」という根本原因が初めて可視化され、全員向けの数値研修を実施することで翌月から黒字に転換できました。

偏りのパターンと対応策

パターン1:リーダーシップ力が店長に集中
→ 店長不在時に現場が回らない。副店長・リーダーのリーダーシップ力を優先的に伸ばす。

パターン2:数値管理力が全員低い
→ FL管理・PL読解の基礎研修を全員に実施する。数値を読める1名をスターターとして集中育成する。

パターン3:顧客満足度向上力はあるがマネジメント力が低い
→ 接客の質は高いが、シフトや在庫管理が混乱しやすい店舗。オペレーション改善を優先する。

パターン4:全体的にバランスが取れている
→ この状態が最も健全。次のステップとして全員のスコアを均等に引き上げるか、特定の軸で突出した人材を育てる。


人材マップを使った育成優先順位の決め方

優先順位決定の3軸

育成の優先順位は、以下の3つの基準で決めます。

基準1:店舗全体への影響が大きい軸から着手する
チーム全員のスコアが低い軸は、その分野の問題が店舗全体に広がっている可能性が高い。まずここから手を打ちます。

基準2:改善が早い軸を選ぶ
リーダーシップ力は短期間で大きく変えることが難しい。一方、マネジメント力や数値管理力は、具体的な知識とツールを提供することで比較的早く改善できます。

基準3:昇進予定者の不足軸を優先する
チームの中で昇進を検討している人がいる場合、その人の最低スコア軸を優先して伸ばすことが、チームへの還元効果も含めて最も効率的です。

育成優先順位の決め方フロー

チーム全員の平均スコアを確認
 ↓
最低平均軸を特定(これが店舗全体の課題)
 ↓
その軸で最高スコアの人を特定(キーパーソン)
 ↓
キーパーソンに同軸の指導役を任せる
 ↓
昇進候補の最低軸と重なる場合は最優先
 ↓
3ヶ月後に再診断して変化を確認

「やらされ感」を出さない診断の導入方法

強制導入の失敗パターン

「今月から全員、診断を受けること」と突然命じた場合、スタッフは「評価されている」「減点のための証拠を集められている」と感じることがあります。この状態では、正直に答えることを避け、「良さそうな回答」を選ぶようになります。すると、スコアの信頼性が下がり、人材マップの意味がなくなります。

自己開示から始める導入法

最も効果的な導入は、店長自身が先に診断を受け、結果をチームに開示することです。

「先日、私もこの診断を受けてみた。結果を見ると、数値管理力が思ったより低かった。逆にリーダーシップ力は高めだった。自分のことを客観的に見るのに使えると思ったから、みんなにも紹介したい。受けてみたい人は受けてみて、共有できる人は共有してほしい。」

この「先に開示する」行動が、チームの心理的安全性を高め、自発的な参加を生みます。

段階的な導入ステップ

  1. 店長受診・結果開示(1週目)
  2. 副店長・リーダーへ個別に案内(2週目)
  3. 全スタッフに任意で案内(3週目)
  4. 共有できた範囲で人材マップ作成(4週目)
  5. 全員参加で育成方針共有ミーティング(翌月)

「全員分揃ってから」ではなく、共有できた範囲でマップを作り始めることで、徐々に参加者が増えていきます。


人材マップシート(記入テンプレート)

以下のMarkdown表をベースに、チームの人材マップを作成できます。

# 店舗人材マップ(YYYY年MM月時点)

## スコア一覧

| 氏名 | 役職 | リーダーシップ力 | マネジメント力 | 売上数値管理力 | 人材育成力 | 顧客満足度向上力 | 合計 |
|------|------|:-----------:|:----------:|:----------:|:-------:|:------------:|:--:|
|      |      |             |            |            |         |              |    |
|      |      |             |            |            |         |              |    |
|      |      |             |            |            |         |              |    |
| **平均** | - |        |            |            |         |              | -  |

## 店舗全体の課題軸(平均スコアが最も低い軸)

- 課題軸①:
- 課題軸②:

## キーパーソン(各軸で最高スコアの人)

| 軸 | キーパーソン | スコア |
|----|-----------|------|
| リーダーシップ力 |  |  |
| マネジメント力 |  |  |
| 売上数値管理力 |  |  |
| 人材育成力 |  |  |
| 顧客満足度向上力 |  |  |

## 今後3ヶ月の育成優先事項

1. 
2. 
3. 

## 再診断予定日

YYYY年MM月

診断シリーズでどう解決するか

昇進適性診断シリーズの各診断は、チームの異なるレイヤーをカバーしています。

診断 チームでの活用場面
店長昇進診断(通常店版) 店長・副店長・店長候補の現状把握
店長昇進診断(繁盛店版) 月商500万超の店舗のリーダー陣
SV昇進診断(通常店版) 複数店舗を持つ企業でのSV候補評価
SV昇進診断(繁盛店版) 大型店・繁盛店の管理者評価
マーケティング力診断 集客・リピート・単価強化の担当者

チーム全員が同じ診断を受けることで比較ができます。役職に応じて異なる診断を受けることで、各自のキャリアステージに合った課題が見えます。

診断ハブページ(https://www.rockhill.jp/shindan/)から、用途に合わせて選んでください。

関連記事

昇進適性診断シリーズの全体像については、昇進適性診断シリーズの全体解説(D-01)をご覧ください。

飲食店の人材課題をより広い視点で把握したい方は、飲食店の人材課題総合ガイド(D-50)も参考にしてください。

診断結果を採用に活用する方法については、採用面接・中途採用に診断を活かす(D-21)で詳しく解説しています。

人材マップのデータを経営層に共有する方法については、診断結果を本部・経営層に共有する(D-23)もご覧ください。


よくある質問(FAQ)

Q1. チーム全員に受けてもらうにはどうすればいいですか?

A. 強制ではなく、店長が先に受けて結果を開示することから始めてください。「評価のためではない」という文脈を丁寧に伝えることで、自発的な参加が生まれます。全員参加を目標にするより、「参加できた人のデータで始める」方が現実的です。

Q2. アルバイトスタッフにも受けてもらうべきですか?

A. アルバイトスタッフは対象外でも構いません。人材マップは「店長・副店長・リーダー層」で作ることが最も活用しやすいです。将来的に正社員登用を検討しているアルバイトがいる場合は、本人の同意を得て受けてもらうと育成計画が立てやすくなります。

Q3. 共有してくれないスタッフがいる場合はどうしますか?

A. 無理に共有させないことが基本です。共有しない人はその人なりの理由があります。「共有してくれた人だけで人材マップを作る」というスタンスを維持し、強制的な雰囲気を出さないことが信頼関係の維持につながります。

Q4. 人材マップはどのくらいの頻度で更新すればいいですか?

A. 3〜6ヶ月ごとの再診断・マップ更新をお勧めします。これ以上の頻度では変化が小さく意味が薄くなり、1年以上間隔が空くと状況と実態がずれてきます。

Q5. 人材マップを外部(本部・オーナー)に共有すべきですか?

A. スタッフの個人情報に関わるデータのため、外部共有は慎重に行ってください。特に個人名とスコアのひも付きは、本人の同意なく外部に出すことは避けてください。チェーン全体での活用を考える場合は匿名化・集計データのみを使うことをお勧めします。

Q6. 人材マップを見た後、具体的に何をすればいいかわかりません。

A. 人材マップの読み方・活用方法について、飲食専門コーチとの30分相談でご相談いただけます。「うちの店舗の課題軸はどこで、何から始めればいいか」を一緒に考えます。相談ページからお申し込みください。

Q7. 新しく入ったスタッフはいつ受けさせればいいですか?

A. 入社直後より、業務に慣れてきた入社1〜3ヶ月後のタイミングをお勧めします。業務経験が全くない状態での受診は、スコアが実態を反映しにくいことがあります。

Q8. スコアを見て落ち込むスタッフがいた場合はどうしますか?

A. スコアは「現在地」であり、「評価」ではないという文脈を丁寧に伝えてください。低いスコアは「伸びしろ」として捉え、「ここを一緒に伸ばそう」という姿勢で関わることが大切です。


まとめ

店舗の人材マップは、チーム全員が昇進適性診断を受け、5軸スコアを横並びにすることで完成します。一人の診断では見えない「チーム全体の偏り」が可視化され、育成の優先順位と分担が明確になります。

最初から全員参加を狙うのではなく、店長自身が先に開示し、段階的に輪を広げることで「やらされ感」を出さない導入ができます。人材マップは一度作って終わりではなく、3〜6ヶ月ごとに更新し、チームの成長記録として機能させることに価値があります。

組織として強い飲食店をつくるために、まずチームの「現在地」を可視化することから始めてみてください。


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この記事を書いた人

ロックヒル

株式会社ロックヒル

株式会社ロックヒルは、飲食企業の集客・広報・マーケティングを「内製化できる仕組み」として構築する支援会社です。SNS運用・MEO・導線設計・スタッフ育成まで、現場と経営をつなぐ伴走型サポートが強みとしてます。代表の蛭田はSHOGUN BURGER CMOなどの経験を持ち、飲食店の成長支援実績が豊富です。