開店初日に大行列。テレビ取材が入り、グルメサイトのランキングで上位。SNSでは「あの店に行った」が並ぶ。それから3年後、その店の看板は外され、シャッターが下りている。
もし、あなたが「一時の話題ではなく、長く愛される店にしたい」と感じているなら、この記事はあなたのためです。
私たちRockHillが目指すのは、「売れている店」ではありません。愛され続ける店です。理由は単純で、その方が、店主もスタッフもお客様も、結果的に幸せになるからです。
話題の店が、3年で消える景色
ある駅近くにできた、創作料理の店を思い出します。オープンから半年は、毎日が満席。雑誌に何度も載り、行列ができ、店主はテレビにも出ました。
3年後、その店はなくなっていました。
理由を聞くと、店主はこう言いました。「最初の1年は本当に楽しかった。でも、2年目から急にお客さんが減って、慌てて新メニューを増やしたり、クーポンを出したりした。気づいたら、何が自分の店の良さなのか、自分でも分からなくなっていた」
これ、見覚えありませんか。
「売れている店」は、瞬発力の競争です。話題性、SNSのバズ、メディア露出。たしかにそれで人は来ます。けれど、瞬発力は持続しません。新しい話題の店が、次のブロックにできた瞬間、お客様はそちらへ流れる。
一方、愛され続ける店は、リレーです。「いつもの味」「いつもの席」「いつもの店員さん」が、お客様の人生の一部になる。そういう店は、メディアに出なくても、10年後も生き残っています。
なぜ「売れる」を追いかけると、苦しくなるのか
「売れている店」を目指すと、必ず数字の競争に巻き込まれます。来店客数、回転率、客単価、Googleの星の数。どれも大事な指標ですが、これらは手段であって目的ではありません。
ところが、現場で走っていると、いつの間にか手段が目的化します。
– 回転率を上げるために、お客様を急かす
– 客単価を上げるために、本当は要らないコースを勧める
– ☆を増やすために、初対面のお客様に「口コミお願いします」と頼む
これ、やっている店主は気づかないうちにやっている。そして、お客様は敏感に気づきます。「この店、最近ちょっと変わったね」と。
あなたが悪いんじゃない。「売れる」を追いかけると、構造的にそうなってしまうのです。本来、料理人として大事にしてきた価値観と、数字を追う動きが、どこかでぶつかる。そのぶつかりを放置すると、店からじわじわと「らしさ」が抜けていく。
愛され続ける店は、この罠を回避できる順序を持っています。「売れる」を結果として受け取り、「愛される」を目的に置く。順序が逆だと、何をやっても苦しい。
仮想のケース:店主Cさんと店主Dさん
同じ商店街にある、創業3年の小さなビストロを比べます。
店主Cさんは、オープン2年目に雑誌に取り上げられ、一気に話題になりました。「このチャンスを逃すまい」と、Cさんは新メニューを毎月3品追加し、ランチも始め、テイクアウトも始めました。スタッフは増え、現場は回らなくなり、料理の質はじわじわ落ちていきました。3年目の月商は、ピーク時より30%下がりました。
店主Dさんは、メディア取材を1回断りました。「うちはまだ、お客様の顔を全員覚えられている。広げるのは、もう少しスタッフが育ってから」。代わりにDさんがやったのは、常連さん10人に「お店に来てよかったと思う瞬間はどんな時ですか」とヒアリングすることでした。
返ってきた答えは、Dさんが思っていたものとは違いました。「メニューが変わらない安心感」「店員さんが私の好みを覚えてくれている」「カウンターの距離感」。料理の細かい話より、体験の話が多かったのです。
Dさんは、新メニューを増やすのをやめ、看板メニューを磨くことに時間を使いました。3年目の月商はピーク時の1.1倍。利益率は、Cさんの店の2倍以上になりました。
差は、「広げる」か「深める」かの選択です。
あなたの店は「愛され続ける」設計になっているか
以下を、スタッフと一緒に眺めてみてください。
- [ ] 月に1人以上、常連さんが「友達を連れて」来てくれているか
- [ ] お客様が「あなたの店ならではの体験」を、自分の言葉で説明できるか
- [ ] 看板メニューが、3年前と「ほぼ同じ」状態で残っているか
- [ ] 「新規」より「再訪率」の方を、優先して見ているか
- [ ] スタッフが、お客様の好みを共有する仕組みを持っているか
- [ ] 1年に1度、お客様の声を直接聞く機会をつくっているか
- [ ] 「派手な集客」より「静かなリピート」を、自分で選べているか
3つ以上「いいえ」があったなら、あなたの店は今、「売れる」を追いかける罠に片足を入れているかもしれません。
私たちRockHillが「愛される」にこだわる理由
私たちRockHillは、「ピーク売上」より「乗り越えても誤魔化されない価値」をつくることを大事にしています。
蛭田は、これまで多くの「3年で消えた話題店」と「20年続く小さな店」の両方を見てきました。続く店には、共通点があります。お客様との関係性が、メニューや内装より長く生きていること。
これは、奇跡でも才能でもなく、設計できる領域です。看板メニューを変えない勇気、常連さんに耳を傾ける時間、スタッフが同じ言葉で店を語れる仕組み。地味で、派手さがなく、SNSには映えません。でも、これが10年後の店を支えます。
私たちは、その地味な設計の隣に座る仕事をしています。話題になることより、愛されること。それが、私たちなりの「ちゃんと報われる」の定義です。
もし「うちは今、売れるを追いかけすぎているかも」と感じたら、一度コーチと話してみませんか。
助言も提案もしません。ただ30分、お店の話を聞かせてください。それだけで、次の一手が見えてくることがあります。
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著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年