「シフトは店長に任せている」「原価管理も店長がやっている」——多店舗化を始めた店主から、よく聞く言葉です。私たちRockHillはこれまで多くの現場を見てきましたが、シフトと原価が「いつも何となく」で回っている店ほど、本部機能が育っていないというサインだと感じています。これは店長の責任ではなく、構造の問題です。今日は、その話を書きます。
月末にレシートを見て驚く店長と、苛立つ店主
ある店主は、毎月25日頃にこう呟きます。「今月、人件費が高い」「原価がまた上がっている」「店長は何をやっているんだ」。一方、店長は月末にレジを締めるまで、自分でも数字が分かっていません。「今月、忙しかったから人を多めに入れた」「食材ロスが出たけど、忙しさで仕方なかった」——どちらも嘘ではないけれど、検証できない。
この構造の悲しさは、誰も悪意がないことです。店主は店長を信じて任せた。店長は信じてもらった責任で、現場の判断を続けた。それなのに、月末になると数字がズレている。互いに、なんとなく後味の悪さを感じたまま、また翌月が始まる。
蛭田はこの場面で、よくこう伝えます。「これは店長の能力の問題ではないし、店主の管理の問題でもない。本部機能がまだ生まれていないだけです」と。本部機能とは、立派なオフィスを持つことでも、管理職を雇うことでもなく、「店長が現場で判断するための、土台と基準を準備しておく機能」のことです。
なぜ「店長に任せれば回る」が成立しないのか
理由は二つあります。第一に、店長は現場の判断で頭が一杯だからです。営業中の動きを止めずに、ピーク時のオペレーションを維持しながら、シフト全体の最適化や原価率の管理まで一人で背負うのは、構造的に無理があります。彼らが「何となく」になっているのは、能力が低いからではなく、思考のスロットが空いていないからです。
第二に、シフトと原価は「中期で考えるべき指標」なのに、店長は短期の現場で生きているからです。シフトは来月の客数予測から逆算する仕事です。原価は仕入れ先との交渉と、メニュー構成の見直しが効きます。どちらも、ピーク時の店内では考えられない種類の仕事です。
つまり、店長が悪いのではなく、「現場の判断者」と「中期の設計者」を、同じ人に同時にやらせている設計が、無理を生んでいるのです。
本部機能の最初の役割は、店長から「中期の設計」を引き取ること。これだけで、店長は現場に集中できるようになり、現場が落ち着くと数字も整い始める。順序が整うと、現場と本部の関係も健全になります。
仮想店主:Gさんは「任せた」、Hさんは「背負った」
具体例で見ます。
Gさん(46歳・3店舗運営・うち2店舗は半年前に開業)
3店舗とも「店長に全権限を任せる」方針。月末に人件費率と原価率の数字だけを受け取り、「もう少し下げて」と指示。店長は次の月、シフトを削り、安い食材に切り替える。一時的に数字は良くなるが、3ヶ月後にスタッフの不満と料理の質低下が同時に起きた。Gさんは「店長を変えるべきか」と悩み始めている。
Hさん(43歳・3店舗運営・うち2店舗は1年前に開業)
Hさんは月の半ばに、3店舗の店長と30分ずつ、数字を見ながら会話する時間を取っている。来月の客数予測を一緒に立て、シフトの目安人時数を本部側で決める。原価は、仕入れ先との価格交渉や、メニュー構成の見直しを本部側で引き受ける。店長は「現場の運営と教育」に集中し、3店舗の数字は安定して伸びている。
GさんとHさんの違いは、店長の能力ではなく、「店主が背負っている範囲」の違いです。Gさんは結果だけ見て指示を出し、Hさんは判断の土台を本部側で作っている。前者は「任せる」と言いながら、実は店長に丸投げしている。後者は「任せる」前に、任せる範囲を設計している。
私たちが現場で繰り返し見るのは、Hさんのような順序を踏んだ店主の方が、結果として店長を長く育てられるということです。任せ方の質が、人の育ち方を決めています。
本部機能の入口:7つの「引き取り項目」
立派な本部組織を作る必要はありません。最初は、店主が個人で「これだけは本部側で背負う」と決めるだけでも、現場は変わり始めます。私たちRockHillが現場で提示している、7つの引き取り項目です。
- 来月の客数予測——昨年同月、先月、直近トレンドの3つで概算する
- 来月の目安人時数——客数予測×業態の標準人時単価で算出
- 原価率の月次目標——業態と季節要因で調整した数値を本部から提示
- 仕入れ先との価格交渉——店長ではなく本部が窓口になる
- メニュー構成の見直し——四半期に1度、本部主導で議論する
- シフトの目安テンプレート——曜日・時間帯ごとの基本人数を本部で定型化
- 月次の振り返り場——店長と本部が、数字を「責めずに観測する」時間を持つ
7項目すべてを一気に整える必要はありません。1〜3から始めるだけでも、店長の頭の使い方が変わります。
私たちRockHillの考え方:現場を信じるからこそ、仕組みで背負う
「店長を信じている」という店主の言葉は、本物です。問題は、信じる気持ちと、信じられる設計が別物だということ。設計のないまま信じると、店長は徐々に消耗します。設計があった上で信じると、店長は伸び始めます。
蛭田が現場でよく言うのは、「任せると放置は違う」という言葉です。任せるとは、任せる範囲を一緒に決めること。放置とは、範囲を決めずに結果だけ求めること。多くの店主が、悪気なく後者をやってしまっている。これは個人の責任ではなく、本部機能を経験する前段階だから、当たり前のことなのです。
現場を信じる気持ちを、ちゃんと現場に届かせるためには、間に「仕組み」というクッションが要ります。私たちが本部設計を大事にしているのは、その一点に尽きます。
まずは、シフトと原価の回し方を聞かせてください
もし「うちも、店長に任せきりかもしれない」と感じたら、一度コーチと話してみませんか。助言も提案もしません。ただ30分、現場の話を聞かせてください。
関連記事:SVと店長の役割の違い / 多店舗展開の前にやるべき準備
RockHillの強くなる飲食店向けツール
現場の課題を整理したいときは、次の導線も活用してください。記事を読んで終わりにせず、自店の現在地を測り、必要な一手に落とし込むための入り口です。
- 昇進適性診断シリーズ:店長・SV・経営力を5軸で可視化し、育成や配置の判断材料にできます。
- 繁盛店が使うマップ集客診断(meo診断.net):Googleマップ上の商圏順位と改善ポイントを確認できます。
- RockHillへの相談:自社の状況に合わせて、集客・育成・仕組み化の優先順位を整理できます。
著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年