「評価制度を作りたいんです」——オーナーや店主からよくいただく相談です。スタッフに公平に時給を上げたい。長く働く理由をつくりたい。だから評価制度を作りたい。
その思い、よく分かります。でも、私たちRockHillは、最初にこうお伝えします。
評価制度より先に、整えるべきものがあります。それは「期待値の言語化」です。今日は、なぜその順序が大事なのかをお話しします。
制度を作っても、機能しないという現実
ある居酒屋のオーナーLさんは、半年かけて評価制度を作りました。S・A・B・Cの4段階、評価項目は20項目、半年に1回の評価面談。コンサルを入れて、立派なフォーマットができた。
しかし1年経って、スタッフの定着率は変わらず、離職率はむしろ上がりました。
スタッフに話を聞くと、こんな声が出ました。
- 「Aを取った人と、Bを取った人の違いが、自分には見えない」
- 「評価項目に『主体性』とあるけど、何をすれば主体性なのか分からない」
- 「面談で『次はAを目指してね』と言われたけど、何をしたらAになれるのか教えてくれなかった」
- 「結局、店長の好き嫌いで決まっている気がする」
Lさんは愕然としました。「制度を作ったのに、なぜ?」。
答えは、シンプルです。評価する以前に、「何を期待しているか」が言語化されていなかったから。評価とは、期待に対する答え合わせです。期待が曖昧なら、評価は形だけの儀式になります。
なぜ「期待の言語化」が先なのか
評価制度は、「期待」を測る道具です。道具が立派でも、測る対象が曖昧なら、出てくる数字は意味を持ちません。
ところが、現場ではこの順序が逆になりがちです。
- まず制度を作る
- その制度に合わせて評価項目を決める
- 評価項目を見て、スタッフに「これを頑張れ」と伝える
この順序だと、評価項目は「制度のためのリスト」になってしまい、現場の実態とずれます。本来は逆です。
- まず「うちの店で頑張ってほしいこと」を3〜5個に絞って言語化する
- それをスタッフに、紙1枚と口頭で伝える
- その期待が満たされたかを振り返る仕組みを作る
ここで初めて、評価制度らしきものが立ち上がります。制度は、言語化した期待を運ぶための器にすぎません。器が立派でも、中身がなければ、誰も飲み物を飲めない。
そして、期待の言語化は、立派なフォーマットを必要としません。A4で1枚、店主が手書きしたものでも構わない。むしろ、店主自身の言葉のほうが、スタッフには響きます。
仮想のケース:店主Lさんと店主Mさん
同じ規模の和食店を比べます。
店主Lさんは、評価制度を作ることに集中しました。半年で立派な制度ができたが、スタッフの行動は変わらなかった。
店主Mさんは、制度を作る前に、A4で1枚の紙を全スタッフに渡しました。タイトルは「うちの店で、私が大事だと思っていること」。
書かれていたのは3つだけです。
- お客様の顔と名前を覚える努力をする(来店2回目で名前を呼べたら最高)
- 後輩には、自分が教わって良かったやり方で教える(怒鳴らない、嫌味を言わない)
- 困ったら、その日のうちに誰かに相談する(ためこまない)
これだけ。評価軸も、点数もない。
ところが、Mさんはこの紙を月1回、5分の朝礼で必ず読み返した。「今月、この3つで、特に動いてくれたのは誰だと思う?」と聞き、スタッフ自身に挙げてもらう。挙がった人には、その場で「ありがとう」を伝える。
半年後、Mさんの店のスタッフは、自然と「お客様の名前を呼ぶ」「後輩を丁寧に教える」「すぐ相談する」が習慣になっていました。立派な制度はなくても、期待が言語化され、繰り返し共有されたことで、文化が変わったのです。
評価制度は、その後で作ればいい。むしろ、文化ができたあとの評価制度は、機能します。
「期待の言語化」を始めるチェック
評価制度を考える前に、以下を試してみてください。
- [ ] 「うちの店で、私が大事だと思っていること」を3つ書き出せるか
- [ ] その3つを、抽象語ではなく「具体的な行動」で書けるか(例:「主体性」→「困ったら相談する」)
- [ ] 書いた紙を、全スタッフに配ったか
- [ ] 月1回、その3つに照らして「今月、誰が動いてくれたか」を共有しているか
- [ ] 期待を満たしたスタッフに、「ありがとう」を口頭で伝えているか
- [ ] スタッフ自身が、その3つを暗唱できるか
- [ ] 半年に1回、3つの中身を見直す機会を作っているか
3つ以上「いいえ」なら、評価制度を作る時期ではありません。期待の言語化が、まだ完了していないということです。
私たちRockHillの考え方
私たちRockHillは、「評価制度を作りましょう」と提案しません。むしろ、制度を作る前に、期待を言葉にする時間を一緒に過ごします。
蛭田は、立派な評価制度を持ちながら機能しない店と、紙1枚の期待リストで文化が動いている店を、たくさん見てきました。違いは、制度の精緻さではない。店主自身が、「うちは何を大事にする店か」を、自分の言葉で持っているかどうかです。
期待の言語化は、コンサルが代わりにやってあげるものではありません。店主自身が、自分の店の歴史と現場から、絞り出すものです。私たちの役割は、その言葉が出てくるのを横で待ち、整理を手伝うことだけです。
評価は、期待のあとに来る。制度は、文化のあとに来る。順序を守れば、人は動きます。
もし「うちの期待、まだ言葉になっていないかも」と感じたら、一度コーチと話してみませんか。
助言も提案もしません。ただ30分、現場の話を聞かせてください。
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現場の課題を整理したいときは、次の導線も活用してください。記事を読んで終わりにせず、自店の現在地を測り、必要な一手に落とし込むための入り口です。
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著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年