インフルエンサーに依頼した。来店は増えた。でも月末の利益は変わらなかった——そういう話は珍しくない。問題は施策の選択ではなく、施策の前に「何を測るか」が決まっていなかったことだ。
施策は走った。でも「何が変わったか」が分からない
SNSを活用しているし、インフルエンサーにも声をかけたことがある。でも結局、売上への影響がよく分からないまま終わった——こういう経験を持つ飲食店経営者は多い。
なぜこうなるのか。原因は施策の内容ではなく、施策の前後で「何を見るか」を決めていないことにある。測定の枠組みがないまま施策を走らせると、良くても悪くても「なぜそうなったか」が分からない。成功も失敗も、次に活かせない。
飲食業のマーケティング支援をしていると、「施策の話」は出てくるが「測定の話」は後回しにされているケースが明らかに多い。施策は具体的で見えやすく、測定は地味で見えにくい。だから順序が逆になる。しかし実際には、測定の仕組みなしに施策を走らせることは、結果を運に委ねているのと変わらない。
測れていない飲食店が踏む3つの轍
測定の土台がない状態で施策を繰り返す店には、共通したパターンがある。
1つ目は、目標KPIを設定せずに施策を走らせることだ。
「インフルエンサーに来てもらったら集客につながるだろう」という期待値はあっても、具体的に何の数字がどれだけ動いたら成功かを決めていない。来店者数なのか、客単価なのか、新規客のリピート率なのか——これが曖昧なまま施策が終わると、振り返りようがない。
2つ目は、施策期間中の売上しか見ないことだ。
インフルエンサーが投稿した週の来客数が増えた。それだけ見て「効果があった」と判断してしまう。しかし本来見るべきは、その施策で来た客がその後もリピートしているかどうか、客単価が変化したかどうか、口コミ評価が動いたかどうかだ。単発の来客増は、施策の成功とは別の話だ。
3つ目は、失敗しても「次は別のインフルエンサー」で同じことを繰り返すことだ。
施策の効果を測っていないから、何が機能しなかったかが分からない。そのままでは次の施策も同じ構造で走ることになる。別のインフルエンサーに頼んでも、測る仕組みがなければ同じ結末になる。
「数値の土台」とは何か
難しいシステムは必要ない。飲食店が最低限把握すべき数値は3つだ。
来店経路——新規客がどこで店を知ったかを把握する。口頭でもアンケートカードでもいい。「インスタを見て」「友人に聞いて」「Googleで検索して」という情報が蓄積されると、施策の流入経路と照合できる。
リピート率——一定期間内に再来店した客の割合だ。POSレジのデータや会員証・LINEの登録情報から追える。施策で来た新規客がリピーターになっているかどうかを見ないと、集客コストに対する本当のリターンが計算できない。
客単価——これは多くの店が把握しているようで、実際には「月平均」しか見ていないケースが多い。施策前後、新規客と常連客、曜日別や時間帯別に分けて見ると、施策が客層にどう影響しているかが分かる。
この3つを施策の前に「ベースラインとして記録する」ことが土台だ。施策後に同じ数値を見れば、何が変わったかが分かる。それだけで、施策の評価が「感覚」から「事実」に変わる。
「土台があって初めて施策が活きる」という順序
インフルエンサーへの依頼が悪いわけではない。SNS広告も、クーポン配布も、やり方次第で機能する。ただし、それが機能しているかどうかを判断できる仕組みがなければ、何をやっても「祈り」の域を出ない。
逆に土台があれば、失敗しても学べる。「あの施策は新規客の来店数は増えたが、リピート率はほぼ変わらなかった。次は来店後のフォローに投資する」という判断ができる。これが積み上がると、施策の精度が上がり、コストが下がり、利益が残り始める。
明日からできることは一つだ。次に施策を動かす前に、「これによって何の数値がどれだけ動いたら成功か」を先に書き出す。それだけでいい。測る準備ができてから、初めて施策を走らせる。施策より先に、土台だ。
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著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年