毎週月曜の本部会議。今週も「店長会議で号令を出します」「徹底を周知します」という言葉が並ぶ。会議が終わると、店長たちのLINEに通達が流れ、現場は「また増えた」と小さく溜息をつく。
もし、あなたが本部側にいて「現場が動いてくれない」と感じているなら、この記事はあなたのためです。
結論を先に言います。現場が動かないのは、現場のやる気の問題ではありません。本部が「見える化」を背負っていないからです。
本部と現場のあいだに、深い溝ができていく
ある10店舗チェーンの本部営業部長。月曜の朝、彼の机には「先週の店舗別売上速報」が積まれています。A店は予算比102%、B店は87%、C店は115%。
部長は、B店の店長に電話をします。「先週どうしたの? 何があった?」B店の店長は答えます。「人手が足りなくて、ピーク時間に席を絞らざるを得なくて……」
部長は「そうか、頑張って」と電話を切る。1週間後、B店の数字は変わらない。部長は次の月曜、また同じ電話をする。
これ、見覚えありませんか。
本部と現場の間に、いつの間にか深い溝ができている多店舗ビジネスは、少なくありません。本部は「数字」で語り、現場は「事情」で語る。両者が同じ言葉を使えないまま、毎週「頑張ろう」を繰り返す。
この景色を、店長のせいにしてはいけません。本部のせいにするのも違う。両者が同じ「見え方」を共有できる仕組みが、設計されていないだけです。
なぜ「現場が頑張る」だけでは限界がくるのか
多店舗ビジネスで、よくある失敗パターンがあります。それは、本部が「依頼者」になり、現場が「実行者」になる構造です。
本部から、毎週のように依頼が降りてきます。
– 新メニューの推奨販売
– SNSへの投稿
– 口コミへの返信
– 衛生チェックリストの提出
– 売上日報の作成
どれも、それ単体では正しい。けれど、すべてが「現場の仕事」として積み重なると、店長は本来の「お店をよくする時間」を失います。気づくと、店長は「本部からの依頼をこなす担当者」になっている。
ここで本部側が「店長の意識が低い」と判断すると、関係は決定的に崩れます。あなたが悪いんじゃない。現場の頑張りが、構造的に経営に届かない設計になっているのです。
本部の本当の役割は、依頼を増やすことではありません。現場の努力が、ちゃんと数字になって返ってくる順序を、本部が背負うことです。
仮想のケース:本部Eさんと本部Fさん
同規模(8店舗)の居酒屋チェーンを、本部の動き方で比較します。
本部Eさん(運営部長)は、毎週月曜に店長会議を開き、売上下位の店舗を呼び出して原因を確認します。会議資料は20ページ。「徹底」「強化」「推進」という言葉が並びます。3年経っても、店舗ランキングの上下の入れ替わりはほぼなく、下位店の店長は3人入れ替わりました。
本部Fさんは、店長会議を月1回に減らしました。代わりにFさんがやったのは、こういうことです。
– 「来店客数」「客単価」「リピート率」を、店舗別に毎日見える化(本部側で集計)
– 各店の店長に「先週、自分が一番嬉しかった出来事は何か」を1行で書いてもらう
– 月1回、本部メンバーが店舗を回り、現場で1時間だけ働く
数字の集計を本部が背負ったことで、店長は「数字を集める時間」を「お客様と話す時間」に変えられました。「嬉しかった出来事」の共有は、店舗間の良い行動の横展開につながりました。本部が現場に立つことで、依頼の質が変わりました。
3年後、Fさんのチェーンは、新規出店をしないまま既存店売上が18%伸びました。スタッフの離職率は、業界平均の半分以下です。
本部が「見える化を背負っているか」のチェック
本部のメンバーで、以下を眺めてみてください。
- [ ] 売上・客数・客単価などの日次数字を、店長ではなく本部が集計しているか
- [ ] 店長会議の資料を、本部が現場の言葉に翻訳しているか
- [ ] 月1回以上、本部メンバーが店舗で1時間以上働く時間があるか
- [ ] 「依頼」より「サポート」の方が、店長への連絡として多いか
- [ ] 店舗間の「良い行動」が、自然に横展開される仕組みがあるか
- [ ] 店長の評価指標が、売上だけでなく「スタッフ定着」「リピート率」も含むか
- [ ] 本部メンバーの中に、3年以上現場経験を持つ人が半分以上いるか
3つ以上「いいえ」があったなら、本部の役割設計を見直すタイミングかもしれません。
私たちRockHillが、本部に期待していること
私たちRockHillは、多店舗ビジネスの本部支援を多く担当してきました。そこでいつも蛭田が伝えているのは、「本部は、現場の上司ではなく、現場の翻訳者である」ということです。
現場の努力は、放っておくと数字にならない。お客様の笑顔は、データにならない。スタッフの成長は、報告書になりにくい。これらを経営の言葉に翻訳するのが、本部にしかできない仕事です。
「現場に頑張ってもらう」のではなく、「現場の頑張りが経営に届く順序を、本部が設計する」。この一歩だけで、本部と現場の関係は変わります。そして、店長の努力が、ちゃんと評価され、ちゃんと給料に返ってくる組織になります。
本部にいる方こそ、現場を報わせる役割を持っています。
もし「本部と現場の溝を、何とかしたい」と感じたら、一度コーチと話してみませんか。
助言も提案もしません。ただ30分、本部の景色を聞かせてください。多店舗運営の構造から見える、次の一手があるはずです。
関連記事として、人材面の課題整理には飲食店の人材課題総まとめが参考になります。
RockHillの強くなる飲食店向けツール
現場の課題を整理したいときは、次の導線も活用してください。記事を読んで終わりにせず、自店の現在地を測り、必要な一手に落とし込むための入り口です。
- 昇進適性診断シリーズ:店長・SV・経営力を5軸で可視化し、育成や配置の判断材料にできます。
- 商圏スコア(meo診断.net):Googleマップ上の商圏順位と改善ポイントを確認できます。
- RockHillへの無料相談:自社の状況に合わせて、集客・育成・仕組み化の優先順位を整理できます。
著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年