シフトに穴が空く。求人を出す。応募が来る。とりあえず面接して、来週から入ってもらう。1ヶ月で辞める。また求人を出す——この回転を、何度繰り返してきたでしょうか。
採用にお金も時間もかかる。なのに、定着しない。気がつくと、求人広告費が利益を食い潰している。
私たちRockHillは、こう考えます。良い店ほど、採用に時間をかけている。それは、ゆっくりやっているという意味ではありません。「穴埋め採用」をしない仕組みを持っているという意味です。今日はその話をします。
「とりあえず採用」が、店を疲弊させていく
ある居酒屋の店主Eさんは、月に1〜2人を採用し、1〜2人が辞めていく状態が2年続いていました。求人広告に毎月8万円。面接にかかる時間は月10時間以上。それでもスタッフ数は増えない。
「もう、応募してくれた人なら誰でもいいんです」とEさんは言いました。
この言葉は、Eさんが冷たいのではなく、消耗しきった現場の本音です。シフトに穴が空くと、店主自身が18時間労働になる。だから、応募者の質を吟味する余裕がない。とりあえず採る。とりあえず教える。とりあえず現場に出す。
その結果、何が起こるか。
- 入ってみたら、合わない人だった → 数週間で辞める
- 既存スタッフが「またこの人もすぐ辞めそう」と教える気を失う
- 店の雰囲気が、入れ替わりの早さを前提にしたものになる
- お客様も「最近、毎回違うスタッフがいるな」と感じ始める
- 常連が静かに離れていく
採用の質を捨てることで、短期の穴は埋まる。でも、中長期で店の地力が落ちていく。これが、穴埋め採用の本当のコストです。
なぜ「採用に時間をかける」が難しいのか
「採用に時間をかけたほうがいいのは分かる。でも、明日のシフトが回らない」——これが現場の本音です。
ここには、構造的な理由が3つあります。
1つめは、採用と現場運営の責任者が同じ人であること。店主や店長が、面接も、教育も、シフト調整も、現場のオペレーションもやる。採用の優先度は、いつも「明日のシフト」の後ろに回る。
2つめは、「採用」を発信ではなく集客と捉えていること。求人広告を出して応募を待つ、という受け身の姿勢が定着している。でも本来、採用は「うちの店で働きたい人を増やす活動」全体です。SNS、口コミ、既存スタッフの紹介、お客様への声かけ——全部が採用活動です。
3つめは、「選ばれる店」になる視点が薄いこと。応募者は、複数の店を比べています。時給、雰囲気、シフトの自由度、教育、人間関係、将来性。あなたの店が、その全部で勝てなくても構わない。でも、「ここの何が選ばれる理由か」を、店主が自分の言葉で言えるかは決定的です。
採用は「選ぶ」だけの行為ではありません。「選ばれる」側でもある。この両側を見ない限り、求人広告にいくら払っても、消耗は止まりません。
仮想のケース:店主Eさんと店主Fさん
同じ業態、同じエリアの居酒屋を比べます。
店主Eさんは、求人媒体に月8万円。応募が来たらすぐ面接、すぐ採用。年間採用人数は15人、年間退職者は12人。実質の純増は3人ですが、入れ替わりで現場は常に新人だらけ。
店主Fさんは、求人媒体には月3万円しかかけていません。代わりに、こんなことをしています。
- 既存スタッフに「友達に声かけてみて」と伝え、紹介には1万円のお礼金
- Instagramで、お店の裏側(仕込み、まかない、スタッフの誕生日)を週1で発信
- 面接は2回制(1回目は店長、2回目は店主との雑談)
- 採用前に「体験シフト2時間」を必ず入れる
- 入店前に「あなたに期待すること」を紙で渡す
Fさんの年間採用人数は7人、年間退職者は2人。純増5人。広告費は半分以下、純増は約2倍。
差は、Fさんが特別な才能を持っていたわけではありません。採用を「穴埋め」ではなく「店の中長期投資」と位置づけただけです。応募者の数は減ったかもしれない。でも、「選ばれる」面と「選ぶ」面の両方を設計した結果、ミスマッチが激減した。
採用に時間をかけるとは、面接時間を長くすることではありません。採用が機能する仕組み全体に、時間を投資することです。
あなたの店の「採用設計」チェック
今、求人を出す前に、以下を眺めてみてください。
- [ ] 「うちで働くと、こういう経験ができる」を、店主が3つ言えるか
- [ ] 既存スタッフが、友達に「うちの店、いいよ」と勧められるか
- [ ] 採用前に、体験シフトや見学の機会を提供できているか
- [ ] 面接は、店主以外の人(店長やリーダー)も同席するか
- [ ] 入店前に「期待すること」を紙で渡す準備があるか
- [ ] 求人広告の文面を、半年以内に見直したか
- [ ] InstagramやGoogleで、お店の働く側の雰囲気が見えるか
3つ以上「いいえ」なら、それは応募者の質の問題ではありません。選ばれる側の設計が、まだ整っていないということです。
私たちRockHillの考え方
私たちRockHillは、「採用は選別ではない」と考えています。採用は、店の価値観を発信する行為です。
蛭田は、面接で「とにかく人がほしいんですよね」と言ってしまう店主に、こう伝えます。「その気持ちは応募者に伝わります。そして、応募者は『この店、誰でもいいんだ』と理解して、最低限の覚悟で入ります」。
採用に時間をかけるとは、ゆっくりやることではありません。応募者が来る前に、店の側で準備を整えておくことです。期待を言語化しておく。スタッフが誇れる職場をつくっておく。お店の見え方を整えておく。
この準備があれば、応募者は減ります。でも、合う人だけが残ります。残った人は、辞めにくい。結果として、採用コストは下がり、現場は安定します。
良い店ほど採用に時間をかけているのは、ゆっくりやっているからではありません。準備を、ちゃんとしているからです。
もし「うちの採用、ずっと自転車操業かもしれない」と感じたら、一度コーチと話してみませんか。
助言も提案もしません。ただ30分、現場の話を聞かせてください。
関連記事として、採用の前後で起きやすい人材課題は飲食店の人材課題総まとめに整理しています。
RockHillの強くなる飲食店向けツール
現場の課題を整理したいときは、次の導線も活用してください。記事を読んで終わりにせず、自店の現在地を測り、必要な一手に落とし込むための入り口です。
- 昇進適性診断シリーズ:店長・SV・経営力を5軸で可視化し、育成や配置の判断材料にできます。
- 商圏スコア(meo診断.net):Googleマップ上の商圏順位と改善ポイントを確認できます。
- RockHillへの無料相談:自社の状況に合わせて、集客・育成・仕組み化の優先順位を整理できます。
著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年