著者:蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年
リード文
「2店舗目を出したら、1店舗目も2店舗目も一気に業績が落ちた」。
多店舗展開に取り組む飲食経営者から、このような話を聞くことが少なくありません。資金は調達できた、物件も見つかった、コンセプトも磨いた。それでも失敗する。その根本的な理由は、ほぼ一つに集約されます。任せられる人の準備ができていなかった。
店舗は物件と設備で作れます。しかし店長は養成するのに時間がかかります。1号店で自分が動いていた部分を誰かに任せなければ、2号店以降は機能しません。その「誰か」が準備できているかどうかを出店前に確認するプロセスが、ほとんどの飲食店に存在しません。
本記事では、昇進適性診断を使って「任せられる人が何人いるか」を把握し、人材の準備状況から出店タイミングを逆算するロードマップを解説します。
多店舗展開で失敗する最大の原因
多店舗展開における人材準備不足とは、出店に必要な店長・SV候補の人材が揃っていない状態で新規出店を行うことで、既存店と新規店の両方が機能不全に陥る状態です。
失敗のメカニズム
多店舗展開が失敗する典型的なパターンは以下のとおりです。
フェーズ1:1号店が順調なので2号店を出店
→ 1号店の成功体験から「自分ならできる」という確信を持つ。資金・物件・コンセプトの準備を進める。
フェーズ2:2号店の店長を決めなければならない
→ 「そういえば任せられる人がいない」という事実に気づく。急遽、今いるスタッフの中で最もましな人を昇格させる。
フェーズ3:2号店開店直後から問題が多発
→ 準備不足の店長が対応しきれず、クレーム・スタッフ定着率の悪化・売上未達が続く。
フェーズ4:経営者が2号店の問題対応に追われる
→ 1号店に戻る時間が取れなくなり、1号店のオペレーションが崩れ始める。
フェーズ5:1号店・2号店の両方が悪化
→ 最悪の場合、2号店の閉店と1号店の業績悪化が同時進行する。
失敗事例の共通点
私がこれまで600店舗以上の飲食店を支援してきた経験から言えば、多店舗展開に失敗するケースの8割以上は「人材の準備不足」が原因です。資金や立地の問題よりも、任せられる人がいない状態で出店したことが、失敗の根本にあります。店舗数を増やすのではなく、まず「任せられる人の数」を増やすことが先です。
「店舗数」より先に「任せられる人の数」を把握する
任せられる人の定義
多店舗展開における「任せられる人」とは、以下の条件を満たす人材です。
- 自分が不在でも、その店舗のオペレーションが機能する
- 売上数値を読んで、自分で改善策を考えられる
- スタッフを育て、チームをまとめられる
- 問題が発生したとき、判断して動ける
これらを満たすかどうかを、昇進適性診断の5軸スコアで確認します。
なぜスコアで確認するのか
「なんとなく任せられそう」という感覚は、経営者の希望的観測が入りやすく、実態と乖離することがあります。診断スコアを使うことで、以下の問いに客観的に答えられます。
- リーダーシップは本当にあるか(ビジョンを語れるだけでなく、実際に人が動いているか)
- 数値管理を自分でできるか(PLを読んで、具体的な改善策を立てられるか)
- 育成の仕組みを持っているか(自分が動くのではなく、人を動かせるか)
任せられる人のチェックリスト
以下の項目を確認します。
店長候補のチェックリスト(出店1店舗あたり1名必要)
- [ ] 店長昇進診断のスコアが80点(全カテゴリ平均3.2点)以上ある
- [ ] 過去に店舗運営を独立して担当した経験がある
- [ ] 経営者不在でも1週間以上、店舗が正常に機能した実績がある
- [ ] スタッフを採用・教育した経験がある
- [ ] FL比率の計算と改善を自分で実行した経験がある
- [ ] クレームに自分で対応し、再発防止策を立てた経験がある
SV候補のチェックリスト(3〜5店舗あたり1名必要)
- [ ] SV昇進診断のスコアが合格水準にある
- [ ] 2店舗以上の管理経験または複数のリーダーを束ねた経験がある
- [ ] 複数の問題を同時並行で処理した経験がある
- [ ] 各店の数値を比較・分析し、改善提案を出せる
- [ ] 店長候補の育成を主体的に行った経験がある
店長昇進診断で「合格ライン80点」を超える人材が何人いるかを確認する
80点の意味
合格ライン80点(全カテゴリ平均3.2点以上)は、「独立した店舗運営を任せられる水準」の目安です。この水準を満たしていない状態で店長に任命すると、経営者が常にフォローに入らなければならない「名前だけの店長」になりやすくなります。
確認の手順
ステップ1:現在の店長候補者全員に診断を受けてもらう
昇進候補として考えているスタッフ・副店長・リーダー全員に、店長昇進診断を受けてもらいます。受診は完全無料・登録不要・3〜10分で完了します。
ステップ2:スコアが80点以上の人数を数える
80点以上の人材が、計画している出店数分いるかどうかを確認します。
ステップ3:80点未満の候補者の弱点軸を特定する
80点未満の候補者については、どの軸が80点達成を妨げているかを確認します。これが「育成すべき課題」です。
ステップ4:育成にかかる期間を見積もる
一般的に、一軸のスコアを平均3.0→3.5に引き上げるには3〜6ヶ月の意識的な取り組みが必要です。複数軸が不足している場合は、それだけ育成期間が長くなります。
ステップ5:育成完了時期から出店タイミングを逆算する
「このスタッフが80点を超えるのが〇月頃」という見積もりから、出店タイミングを決めます。
SV昇進診断で「次のSV候補」が育っているかを確認する
多店舗展開とSVの関係
3店舗以上を経営する場合、経営者自身がすべての店舗を直接管理することは難しくなります。この段階で必要になるのが、スーパーバイザー(SV)です。
SVは複数の店長を束ね、各店舗の数値分析・育成・問題解決を担う役割です。店長が優秀でも、SVが不在だと多店舗管理は経営者一人に集中し、スケールしません。
SV候補の確認方法
SV昇進診断(通常店版)(https://www.rockhill.jp/shindan/sv/normal/)またはSV昇進診断(繁盛店版)(https://www.rockhill.jp/shindan/sv/hanjo/)を、SV候補者に受けてもらいます。
SV診断の5軸:
1. 多店舗マネジメント力
2. 人材開発力(店長を育てる力)
3. 数値分析・改善力
4. 戦略立案・実行力
5. コミュニケーション・統率力
これらのスコアを確認することで、「今のこの人に複数店舗を任せられるか」が明確になります。
展開前チェックリスト(人材面)
出店数と必要な人材数の目安
| 出店計画 | 必要な合格水準の店長候補 | 必要なSV候補 |
|---|---|---|
| 2店舗目出店 | 1名(2号店担当) | 不要(経営者がSV兼任可能) |
| 3〜4店舗展開 | 計3〜4名 | 1名(SV候補を育成開始) |
| 5〜7店舗展開 | 計5〜7名 | 1〜2名(SV体制の確立) |
| 8店舗以上展開 | 計8名以上 | 2〜3名(エリアSV体制) |
※この目安は、店舗規模・業態・店長の経験レベルによって変わります。
出店前に揃えるべき人材条件
最低条件(この条件を満たしていなければ出店を延期すること)
- [ ] 新規店舗の店長候補が1名以上、80点超のスコアを持っている
- [ ] その候補者が「この店舗に行きたい」という意志を示している
- [ ] 既存店の店長として70点以上の人材が残る
- [ ] 経営者が週1回以上、新規店舗を訪問できる体制がある
理想条件(この条件があれば出店の確度が上がる)
- [ ] 新規店舗の店長候補が2名以上いる(一人欠けてもバックアップが効く)
- [ ] 既存店の副店長が70点以上で、いざとなれば代理ができる
- [ ] SV候補が1名育成段階にある(3店舗目以降を見越して)
- [ ] 既存店のオペレーションマニュアルが完成している
「任せられる人がいない状態での出店」のリスク
具体的なリスクシナリオ
リスク1:経営者が現場に引き戻される
2号店を任せた店長が問題対応できずに連絡が絶えない状態になると、経営者は2号店の問題解決に引き戻されます。この状態では、1号店への関与ができなくなり、1号店も機能低下します。結果として、経営者は「2つの問題を同時に抱えている」状態になります。
リスク2:店長候補が早期退職する
準備不足の人材を無理に昇格させると、本人の力量を超えたプレッシャーがかかります。「思っていた仕事と違う」「サポートがない」という状態が続くと、早期退職につながります。採用→育成→退職のサイクルが繰り返され、人材コストが急増します。
リスク3:ブランドイメージの毀損
店長の力量が不足している店舗では、QSCが崩れ、クレームが増加します。1号店で築いたブランドイメージが、2号店の低品質によって傷つくことがあります。一度失った信頼を回復するコストは、出店のコストを上回ることがあります。
人材準備から出店タイミングを逆算するロードマップ
ロードマップの考え方
出店タイミングは「物件が見つかったとき」ではなく、「任せられる人が揃ったとき」に設定します。これが多店舗展開を安全に進めるための基本的な考え方です。
ロードマップの作り方
現状確認(今すぐ実施)
1. 全スタッフ・候補者が店長昇進診断を受診する
2. 80点超えの人材を把握する
3. 80点未満の候補者の不足軸を特定する
育成フェーズ(3〜12ヶ月)
4. 不足軸を補う育成プランを立てる(研修・OJT・外部コーチング)
5. 3ヶ月ごとに再診断してスコアの変化を確認する
6. 80点超えの人材が目標数に達したら出店準備を本格化
出店準備フェーズ(2〜4ヶ月)
7. 候補者を新規店舗の店長に内定し、出店準備に参画させる
8. 既存店のバックアップ体制を整える
9. オペレーションマニュアルを新規店舗向けに整備する
10. SV候補の育成をスタートさせる
出店後フェーズ(開店〜6ヶ月)
11. 開店後3ヶ月は経営者が週2〜3回訪問する
12. 店長の再診断を実施(配置が合っているか確認)
13. 問題点を早期発見・早期対応する
14. 6ヶ月後に安定確認できたら次の出店準備に移行
ロードマップ例(2号店出店まで)
【現状】スタッフ5名。80点超え:0名。最有力候補(副店長):65点。
不足軸:売上数値管理力(2.0)・人材育成力(2.5)
【育成計画】
1〜3ヶ月目:PLの読み方研修 + 数値管理OJT
4〜6ヶ月目:部下への指導業務を増やす・月次振り返りを担当させる
7〜9ヶ月目:再診断(目標75点)
10〜12ヶ月目:さらに改善 + 物件選定・契約準備開始
13ヶ月目:再診断80点超え確認 → 2号店出店内定
15ヶ月目:2号店オープン
この例では、「今すぐ出店」ではなく「15ヶ月後に出店」というタイムラインを人材の準備から逆算して設計しています。
診断シリーズでどう解決するか
多店舗展開の人材準備には、以下の診断を組み合わせて使います。
店長昇進診断(通常店版):2号店以降の店長候補の適性確認
→ https://www.rockhill.jp/shindan/tencho/normal/
店長昇進診断(繁盛店版):繁盛店クラスの新規出店の店長候補の適性確認
→ https://www.rockhill.jp/shindan/tencho/hanjo/
SV昇進診断(通常店版):3店舗以上展開を見越したSV候補の確認
→ https://www.rockhill.jp/shindan/sv/normal/
SV昇進診断(繁盛店版):大型店・繁盛店展開でのSV候補の確認
→ https://www.rockhill.jp/shindan/sv/hanjo/
診断ハブ:https://www.rockhill.jp/shindan/
関連記事
昇進適性診断シリーズの活用全体像は、診断シリーズの活用ガイド(D-01)からご確認ください。
人材マップの作り方と活用方法は、チーム全員で受ける「店舗の人材マップ」のつくり方(D-22)で詳しく解説しています。
経営層への人材データ共有については、診断結果を本部・経営層に共有する(D-23)を参考にしてください。
飲食店の人材課題の全体像は、飲食店の人材課題総合ガイド(D-50)をご覧ください。
スタッフの育成を診断から始める方法については、スタッフ育成を診断から始める方法(D-26)も合わせてお読みください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 2号店を出店するのに必ず80点超えの人材が必要ですか?
A. 「80点超え」は合格ラインの目安であり、絶対条件ではありません。ただし、スコアが大幅に低い状態での出店は、経営者が新規店舗の問題対応に引き戻されるリスクが高まります。出店前に「この人に任せられる」と判断できる根拠を、できるだけ客観的な形で持つことをお勧めします。
Q2. 診断スコアが低いスタッフを無理に昇格させると何が起きますか?
A. 本人の力量を超えた役割に置かれると、精神的なプレッシャーが増し、早期退職のリスクが高まります。また、スコアが低い軸での問題(数値管理の失敗・スタッフ定着の悪化など)が実際に店舗で発生しやすくなります。
Q3. 80点に達するまで出店を待てない場合はどうしますか?
A. 70〜79点の候補者を昇格させる場合、経営者またはSVが密接にフォローする体制を同時に整えることが重要です。週2〜3回の訪問・毎日の数値確認・週次1on1など、通常の出店より高密度のサポートを計画してください。
Q4. 既存店のスタッフから店長を育てるのと、外部採用するのはどちらが良いですか?
A. 既存スタッフを育てる方が、自社の文化・オペレーション・価値観を共有しているため、新規店舗での立ち上がりが早い傾向があります。ただし「育つまでの時間がかかる」という問題もあります。外部採用は即戦力の補完として使い、既存育成と並行することをお勧めします。
Q5. 多店舗展開の相談を個別に受けてもらえますか?
A. 「人材の現状確認」「出店タイミングの逆算」「育成ロードマップの設計」について、飲食専門コーチとの30分相談でご相談いただけます。相談ページからお申し込みください。
Q6. フランチャイズ展開でも同じ方法が使えますか?
A. フランチャイズ展開でも、各店舗を任せる店長の適性確認に診断は活用できます。ただしフランチャイジー(加盟店オーナー)の育成はFC本部の管理下になるため、活用方法についてはFC契約の内容に合わせて確認してください。
Q7. SV昇進診断はどのタイミングで受けさせるべきですか?
A. 3店舗目の出店を検討し始めた時点で、SV候補者にSV昇進診断を受けてもらうことをお勧めします。育成にかかる時間を逆算するためにも、早めに現在地を把握しておくことが重要です。
Q8. 多店舗展開で成功している飲食店の共通点は何ですか?
A. 私が支援してきた事例からは、「出店より先に人材を育てる文化がある」「店長・SV候補の育成が仕組み化されている」「定期的な人材評価と対話が行われている」という3点が共通しています。物件・コンセプト・資金より先に、人材の土台を整えることが多店舗展開成功の鍵です。
まとめ
多店舗展開で失敗する最大の原因は人材の準備不足です。「店舗数を増やす」ことより先に「任せられる人の数を増やす」ことに注力することが、安全な多店舗展開の基本です。
昇進適性診断を活用することで、「今どれだけの人材が80点水準にあるか」を客観的に把握できます。足りなければ育成計画を立て、育成完了時期から出店タイミングを逆算する。このプロセスを踏むことで、「物件が見つかったから出店する」という行き当たりばったりの展開から脱却できます。
人材の準備が整っていれば、出店は確実に成功確度が上がります。まずは今いる人材の現在地を診断で確認するところから始めてください。
3段階CTA
【第1CTA】
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診断結果をどう次の一手につなげるか――600店舗以上の現場知見を持つ飲食専門コーチによる30分の相談で、一緒に考えます。
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飲食店の現場づくり・人材育成のヒントはYouTube「路地裏のハイボール会議室」でも発信中。
→ https://www.youtube.com/@rockhill_dx