飲食店マーケティングが今必要な理由とは?時代変化の読み方完全版
「美味しいものを作れば、人は来る」——この言葉を信じて店を開いた経営者は多い。実際、かつてはそれで通用した。腕があれば、立地が良ければ、あとは口コミが広がった。だが今、そのロジックで動いている店が、ゆっくりと、しかし確実に厳しくなっている。何かが変わった。問題は、その「何か」の正体を多くの経営者がまだ掴みきれていないことだ。
構造が変わった——三つの断絶
飲食店を取り巻く環境は、過去10〜15年で本質的に変わった。景気の波ではなく、構造の変化だ。一時的に対応すれば元に戻るものではない。
一つ目は、人口減少だ。
市場のパイが縮んでいる。飲食市場全体の規模は、人口動態と切り離せない。総務省のデータが示す通り、日本の生産年齢人口は既に1990年代後半をピークに減少を続けている。地方都市では顕著だが、都市部でも時間の問題だ。これまでと同じやり方で同じ客数を維持しようとすれば、シェアを奪い合うしかない。「美味しければ来る」が成立するためには、そもそも来る人口が存在している必要がある。その前提が揺らいでいる。
二つ目は、情報過多だ。
選ばれる前に、知ってもらわなければならない時代になった。10年前、消費者が飲食店を選ぶ主な経路はグルメサイトだった。それがGoogleマップに移り、今はInstagramやTikTokのショート動画で発見されることが増えている。「発見の場所」が次々と変わっているということは、どこで自分の店の存在が認知されるかをコントロールしなければ、そもそも選択肢に入れないということだ。
飲食店の数は増え続けている。2020年代に入っても新規出店は止まらない。消費者は毎日、膨大な情報にさらされながら「今日どこに行くか」を決めている。その文脈の中に登場できるかどうかは、美味しさとは別次元の問題だ。
三つ目は、物価高と集客コストの上昇が同時に起きていることだ。
食材費が上がり、光熱費が上がり、人件費も上がっている。利益率が圧縮される中で、グルメサイトへの掲載料、広告費、SNS運用のコストは下がっていない。むしろ上がっている。利益率が下がっているのに、集客にかかるコストは増えている。この構造で「来てくれるのを待つ」経営を続ければ、数字が締まらなくなるのは当然だ。
マーケティングを「広告」と混同してはいけない
「マーケティングが必要」と言うと、「SNS広告を出せばいいか」「インフルエンサーに投稿してもらえばいいか」という発想になりがちだ。それは誤解だ。
マーケティングとは、広告を打つことではない。選ばれる仕組みをつくることだ。
誰に来てほしいのか。その人が今、どこで情報を取っているのか。その人が来店した後、また来てくれる理由が何かあるか。来た人が誰かに話したくなる体験があるか——こうした問いに答えを持ち、それを継続的に設計することがマーケティングだ。一度広告を打てば終わりではなく、来客のデータを見ながら改善を続けるサイクルを回すことが本質だ。
多くの飲食店経営者がマーケティングを「コスト」と捉えている。しかし正しく機能するマーケティングは「投資」だ。来客を測り、どの経路で来ているかを把握し、どの客層がリピートしているかを理解する。そこから始めなければ、何に投資すべきかがわからないままコストだけがかかる。
まず「測ること」から始める
何から始めるべきか。最初のステップは測ることだ。今、あなたの店に来ている客は、どこで店を知ったのか。何を目的に来ているのか。どの層がリピートしていて、どの層が一度きりなのか。この情報なしに、何をすべきかの優先順位はつけられない。
来店時のアンケート、Googleビジネスプロフィールの閲覧数の推移、予約経路の内訳——それだけでも把握できることは多い。分析ツールも必要ない。まず「見る習慣」をつくることが起点だ。
美味しいものを作る努力は続けるべきだ。それは前提だ。しかしその努力が、来てくれた人に届き、次の来店につながり、口コミとして広がるためには、設計が必要だ。その設計こそが、今の時代における飲食店のマーケティングだ。
まとめ
今日からできる一つの行動は、「今週来た客が、どこで自分の店を知ったか」を5人に直接聞くことだ。その答えの中に、あなたの店のマーケティングの現在地がある。測ることなしに、改善は始まらない。
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著者: 蛭田一史(株式会社RockHill 代表取締役)|飲食店支援600店舗以上(累計)|設立2009年